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あふれでたのはやさしさだった

 

 『あふれでたのはやさしさだった』

 という本があります。

 作者は、寮美千子さん。

 

 奈良少年刑務所における社会性涵養プログラムについてのノンフィクションです。

 作者が実際に講師として経験したことをもとに書かれています。

 

 この本の前には、『空が青いから白を選んだのです』『世界はもっと美しくなる』という2冊の詩集を編集されています。

 2冊とも、奈良少年刑務所の受刑者が書いた詩が集められています。

 

 詩集のタイトルにもなった「空が青いから白を選んだのです」という詩は、この一行で完結します。

 この詩のタイトルは「くも」です。

 

 幼いころ、父に殴られる体の弱いおかあさんを守ることが出来なかった少年。

 おかあさんは亡くなる前、少年に対し「つらくなったら、空を見てね。わたしはきっと、そこにいるから。」と言ってくれた。

 そんなおかあさんのことを思って、おかあさんの気持ちになって、書いたそうです。

 

 この詩について

 「この詩を書いただけで、親孝行やったと思います。」

 「大丈夫だよ、親孝行できたよ、詩を書いただけで供養できたからね」

 と声を掛けてあげる子がいたそうです。

 

 

 その子は、殺人で服役中でした。

 

 

 もちろん、詩を書いた子も、受刑者です。

 

 他にやさしく声を掛けてあげる子も全員受刑者。

 

 作者は、

 「もう、どいつもこいつも、なんてやさしいんだろう。一体、なにがあって、きみたちはここにいるのだろうかと、そんな問いが心の中を駆け巡った。」

 と表現しています。(p115)

 

 まったく、同感です。

 本を読めば読むほど、そう思います。

 

 そして、そのヒントや回答は本の中に散りばめられています。

 

 皆さんにも、詩集とともに是非読んでもらいたい本です。

 

 

 

 本書に出てくる奈良少年刑務所の教育統括の言葉をご紹介します。

 統括が、作者から、社会性涵養プログラムを通してやりたかったことは何かと問われたときの言葉です。

 

 

 「彼らの物語を書き換えてあげたかった。」

 

 

 この本を読めば、少なからず同じ気持ちになるのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 もちろん、犯罪には、被害者とそのご家族や友人がいて、現在進行形で苦しい思いをされていると思います。

 殺人などで命を奪われば、その怒りを消すことはできないと想像いたします。

 当然、受刑者の犯した罪が消えることはありません。

 犯罪行為を許したり、彼らを無罪放免にすべきというような気持ちもありません。

 

 ただ、彼らは生まれつきのモンスターや異常者などではなく、犯罪者を作ったのは、私を含む我々の社会なのだという理解でこの記事を書きました。