原告 X(被補助人亡Aの従兄弟・後発遺言の受遺者)
被告 Y(NPO法人・Aの補助人・先発遺言の受遺者)
【争いのない事実及び認定された事実(時系列)】
1 Y、Aの補助人に就任
2 Yの従事者Bが支援員としてXに関わるようになる
3 BがYから離れる。支援員がCに変わる。
4 A危篤の報を受け、BがAをお見舞い
5 Bが、お見舞いの場で、相続人ではないDに遺贈したい旨を聞き取る
6 後日、Bは、Y関係者から受遺者にYも入れるよう言われるが、本人が望んでいないため断る
7 Bが、公証人とやり取りをしているうちに、Yにすべて遺贈する旨の公正証書遺言が作成される(証人は行政書士2名)
8 7の遺言作成当日、その事実を知ったBが、Aの元を訪れて意向を確認したところ、Yに遺贈するつもりがないことがわかる
9 Bが、Aに対し、Dに遺贈する旨の自筆証書遺言を作成することを提案すると、遺贈したいのは従兄弟のZであることを告げる
10 Aは、Zに対して全財産を遺贈する旨の自筆証書遺言を作成する
11 10の遺言に書かれたZは、Xの父であり、既に死亡していた。また、住所も同じ県内の違う市が書かれていた。
12 A死亡
13 Y、Aの預金の一部200万円をY口座に移し、不動産につき遺贈を原因とする所有権移転登記をする。その後、公正証書遺言の遺言執行者である行政書士の代理人に約219万円を送金した。
14 X、提訴
15 Y、反訴
【請求】
1 本訴
(1) 被告は,原告に対し,別紙1物件目録記載の土地及び建物について,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(2) 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成30年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
神戸家庭裁判所平成29年(家)第○○○号遺言書検認申立事件において検認されたA(最後の住所 神戸市北区(以下略))に係る平成28年11月7日付け自筆証書遺言は無効であることを確認する。
【争点】
1 本件自筆証書に係る遺言者の自書及び押印の要件充足の有無
2 本件自筆証書作成当時におけるAの遺言能力の有無
3 本件自筆証書に係る受遺者の存否
4 本件不動産の所有権の帰属
5 預金200万円の取得について被告に法律上の原因がないこと
6 自筆証書遺言についての被告の認識等
【裁判所の判断】
1について
自筆証書遺言の要件を満たしている
2について
「遺贈の相手方である受遺者を誰にするかという点についての自らの意思を明確に示すなどしており,決して意識が不清明な状態にはなかったことが認められる。そして,同日の午前11時頃から本件自筆証書作成に至るまでの間に,Aの事理弁識能力が急激に低下した等の事情が存しないことも踏まえると,本件自筆証書作成当時,Aには遺言能力があったと認められるのであり,被告の主張するように,遺言能力がなかったとはいえない。」
3について
氏名
「Zという氏名は,Xの父の氏名と同一であるが,Xの父とAは,生前交流がなかった上,Xの父は,平成19年頃に既に死亡していたことが認められる。一方,Xは,Aが死亡する直前までAに年賀状を送るなど交流があり,その氏名である「X」は,本件自筆証書に受遺者として記載された「Z」の文字を含むことから,同記載はAの勘違い又は名前の記憶違いにすぎないとみられること,Aの父の姉の息子であって,かつ,従兄弟の男性という要素が全て当てはまる人物はX以外にいないことからすれば,本件自筆証書の「いとこのZ」とは,Xを指していると認められる。」
住所
「川越市とさいたま市とは同じ埼玉県内にあり,隣接していること等を踏まえると,かかる事実は受遺者が原告であるとの前記判断を左右しない。」
4について
後発する自筆証書遺言が有効なので、反訴請求棄却
5について
Yが取得した200万円には法律上の原因がない。
弁護士費用20万円については、不当利得及び不法行為のいずれも成立しない。
6について
自筆証書遺言が「有効であることが一見して明らかであったということまでは認められないから」Yにおいて自筆証書遺言を「有効であると考えなかったとしてもあながち不合理ということもできない。そうすると,被告による上記200万円の引き出し及び送金の行為は,YがXに帰属する預金債権を害することを認識してした故意によるものとまでは認められないから,被告に不法行為が成立するとはいえない。したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく請求は理由がない。」
結論
以上によれば,原告の本件各請求は,本件不動産について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続並びに不当利得返還請求として200万円及びこれに対する催告の日の翌日である平成30年6月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。被告の反訴請求は理由がないから棄却すべきである。
【主文】
1 被告は,原告に対し,別紙1物件目録記載の土地及び建物について,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成30年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求及び被告の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを100分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
驚くのは、後見人等であるYが、本人であるXから遺贈を受けることに躊躇がないどころか、積極的に受けようとしている点です。私の感覚ではあり得ませんし、多くのリーガルサポート会員も同じではないかと思います。仮に、申し出があったとしても、お断りします。
また、自筆証書遺言について、氏名も住所も違う人物が書かれたにもかかわらず、その他の事情から真に意図する人物を認めている点も見逃せないと思います。
私にはとても興味深い内容でした。
ときどき、判例を検索しています。