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民法921条1号の処分

 

 おはようございます。

 

 今日は真面目な話。

 いや、いつも真面目ですけどね。

 

 民法921条 法定単純承認

 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 (以下略)

 

 怖い条文ですね~。

 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされてしまうのです。

 そして、単純承認となってしまうと、920条で「無限に被相続人の権利義務を承継する。」って怖すぎます( ゚Д゚)

 

 む・げ・ん・・・色っぽくないです!全然!

 

 この構造の何が怖いのかって言いますと、知らずに「処分」しちゃってたとき!

 深く考えずに「処分」しちゃってたとき!

 

 そもそも「処分」て何よ?

 

 ・・・。

 んー、処分は処分よ。

 と思ったそこのあなた!

 

 ちょっとこの世界を覗いてみましょう。

 

 東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第3990号 判決要旨

 弁護士は、依頼者に対し、善良なる管理者の注意義務をもって依頼案件の処理を行う義務があるところ、被相続人名義の不動産について相続人が所有権移転登記手続をすることが民法921条1号本文の「処分」に当たるにもかかわらず、弁護士が、その点の見通しを誤り、単純承認をしたものとみなされ、被相続人の債権者から多額の債務の支払を求められるといったおそれがあることを相続人である依頼者に説明することを怠った以上、依頼者に損害を与えないようにすべき義務に違反したものというべきである。

 

 キタ( ゚Д゚)

 いきなりの司法書士ガクブル案件

 怖いですね~

 

 東京地方裁判所判決/平成8年(ワ)第12411号 判決要旨

 一 被相続人が経営していた会社の株主総会等において、相続人が、被相続人の有していた株主権を行使して取締役を選任することは、民法九二一条一号所定の「相続財産の処分」に該当する。

 二 相続人が、被相続人が賃貸していたマンションの転貸料の振込先を賃借人から相続人名義に変更することは、民法九二一条一号所定の「相続財産の処分」に該当する。

 

 これも怖い( ゚Д゚)

 株主総会議事録作っておきますね~

 

 東京高等裁判所判決/昭和62年(ネ)第2764号 判決要旨

 相続人が被相続人の建物賃借権を相続取得する意思で、賃貸人に対して、賃借権が相続人に帰属することの確認を求めて訴訟を提起・追行することは、民法921条1号にいう「処分」に当たる。 

 

 これはまぁ権利を主張しているのでなんとなくわかりますね。

 これは怖くない。

 

 最高裁判所第1小法廷判決/昭和57年(オ)第274号 判決一部抜粋

 民法九二一条三号にいう「相続財産」には、消極財産(相続債務)も含まれ、限定承認をした相続人が消極財産を悪意で財産目録中に記載しなかつたときにも、同号により単純承認したものとみなされると解するのが相当である。けだし、同法九二四条は、相続債権者及び受遺者(以下「相続債権者等」という。)の保護をはかるため、限定承認の結果清算されるべきこととなる相続財産の内容を積極財産と消極財産の双方について明らかとすべく、限定承認の申述に当たり家庭裁判所に財産目録を提出すべきものとしているのであつて、同法九二一条三号の規定は、右の財産目録に悪意で相続財産の範囲を偽る記載をすることは、限定承認手続の公正を害するものであるとともに、相続債権者等に対する背信的行為であつて、そのような行為をした不誠実な相続人には限定承認の利益を与える必要はないとの趣旨に基づいて設けられたものと解されるところ、消極財産(相続債務)の不記載も、相続債権者等を害し、限定承認手続の公正を害するという点においては、積極財産の不記載との間に質的な差があるとは解し難く、したがつて、前記規定の対象から特にこれを除外する理由に乏しいものというべきだからである。

 

 この事件、ごめんなさい921条3項の話なんですけどね。

 前提としてね、司法書士が二重売買しているんです。

 それが怖い( ゚Д゚)

 

 最高裁判所第1小法廷判決/昭和36年(オ)第1029号 判決要旨

 相続人が相続開始後、相続放棄前に相続債権の取立をして、これを収受領得した場合には、民法第九二一条第一号にいわゆる相続財産の一部を処分した場合に該当し、相続の単純承認をしたものとみなされる。

 

 債権の取立てもうっかりするとうっかりしちゃうんです

 怖い怖い( ゚Д゚)

 

 

 なぜこの部分に興味を持ったのかと言いますと、実は今年の夏に、個人タクシーの譲渡譲受要件が緩和されまして、事業者の死後60日以内であれば譲渡譲受が可能とされました。

 

 その話を聞いて、相続の熟慮期間が3か月とされていることと、釣り合わないなと思いました。

 そして、「取り急ぎタクシーの譲渡譲受だけでも…」と動いた結果、それは921条の処分に該当しますよと言われた時の危険性を考えた次第です。

 

 私自身が個人タクシーを引退する際に譲渡譲受をしていまして(私は生きているので死後譲渡ではありません)、譲渡授受を身近に感じていたことも影響あるかもしれません。

 

 

 あれ、今年残り50日切ってるんですね。。